
ベトナムでモノを買うということを、ここでちょっと話しておこう。たとえばこういうことがある。
ドンコイ通りの時計屋でロレックスのクロノグラフを見つける。クロノグラフといえば、時計の文字盤上にストップウォッチなど別機能の小さな文字盤が3つばかり配置してある、いかにも無駄な機能が大好きな男が惚れそうなやつだ。
ショーケースの上から眺めていると店のにいちゃんが「見るかい?」と出してよこし、頼んでもいないのに解説しはじめる。少し笑いながら。
「これニセモノだよ。ほら、側(ガワ)の竜頭を見てみなよ」
文字盤ごとにそれぞれ操作するための竜頭がある。つまりボディの脇に3つの竜頭が突き出ている。パッと見なんでもないのだが、にいちゃん得意げな顔で――、
「ボタンを押してみなよ」
やってみると全然押せない。押すことで機能させる装置なのに、もう頑として動く気配がない。
「よ~く見てみなって。そのボタン、中につながってなんかなくて、ボディと一体になってるだろ」
目を凝らすと、確かに竜頭とボディの「継ぎ目」がない。つまり――、
ああ、なんてえことだ――!
この時計モドキは、金属の塊から時計のボディを削り出す際、竜頭の形状まで一緒に削り出してしまっているのだ。つまりこれは時計を操作するための精密な部品などではなく、ただのでべそに過ぎないというわけだ。
にいちゃんの顔を見る。自分が売っている商品が贋物であることを簡単に明かし、その上でこの清々しいまでの微笑みは、いったい何を意味するのだろう。
――さすがにこいつぁやり過ぎだぜ……。
にいちゃんの顔を見る。自分が売っている商品が贋物であることを簡単に明かし、その上でこの清々しいまでの微笑みは、いったい何を意味するのだろう。
――さすがにこいつぁやり過ぎだぜ……。
という呆れた笑みなのか、それとも、
――どうだ、この馬鹿馬鹿しいまでの技術とエネルギーの浪費を見てくれ――。
みたいな、一片のプライドを誇る笑みなのか……。
【ベトナムジッポー 6】につづく。
スカイスキャナー

文/写真 太田耕輔(ライター・文筆家)
パラオの某ダイブショップにマネージャーとして勤務していたが6年目にして発作的に退職、日本に帰らずそのままインドシナ半島放浪の旅へ。フラフラになったところをベトナムにとどめをさされ帰国。
1年半引きこもってパラオでの体験を書き、半年かけて出版社に売り込んで回ったら本当に出してもらえるという奇跡が起きた。それがダイバーはパラオの海をめざす





【ベトナムジッポー 6】につづく。
スカイスキャナー

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以降ライター・文筆家として活動。エッセイ、取材記事、ガイドブックやパンフレット、マニュアル、宣伝用の文章からメルマガまで文章ならなんでも書く。
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この記事へのコメント
カナリア
自分はベトナム戦争時代生まれてもいませんし教科書で習ったレベルしか知りませんが、このような体験が具現化したもの。集合的記憶をぶち壊してくれたり想像の余地を広げてくれる物が大好きです。
続きも楽しみにしています。