それはベトナム戦争当時、兵士たちが実際に使っていたと言われるライターだ。

(ベトナムを南北に分けていた北緯17度線で蓋が開くようになっている)
それぞれのボディの表面には、さまざまな彫りこみや刻印が施されている。派遣期間や派遣地、部隊のシンボルマーク。呪いや絶望や皮肉や、はたまた希望や祈り、ナンパの文句まである。それを携行した兵士が思いのたけを刻み込んだものだ。スヌーピーやミッキーマウスや拙い裸の女が彫り付けられているものもある。
そうしたライターがいたるところで、ショーケースの中で静かに鈍く光っているのである。
ベトナムを訪れるたび、そいつを街角で目にするたび、ずっと気になっていた。
たいていの男なら気になるはずである。なぜなら――、
すべての男はモノ好きなのである。
コンビニや書店の雑誌コーナーを思い出してほしい。時計、カメラ、バイク、ナイフ、デジタル機器、靴、バッグ、モデルガン……、男性向け雑誌はどれも、モノカタログばかりではないか。
そして、そんな男たちが信奉するモノの中でも、最も熱いモノ――。
それは、過酷な状況を生き抜くための機能を備えたタフな道具(ツール)たちだ。
たとえば男が時計を選ぶとき――そんなことありえないのに――、ふいに文明から隔絶された環境に放り出された状況を想定してみたりする。そして、20気圧防水機能やらコンパスやらGPSやら国際救難信号発信装置やらが(そんなものがあるかどうかは知らないが)ついている時計を見つけては、ひとり何度もうなずいてみたりするのである。
ZIPPO社のオイルライターときたら、そんな男たちがずっと愛し続けてきたタフなツールの代表選手だ。金属製の無骨な四角いケースに、これまた金属製のオイルタンクと風防つきの着火装置がはめ込んであるだけのシンプルにして質実剛健、堅牢無比なタフガイ。“Try the fan test”のキャッチコピーでわかるとおり、風の中でも必ず着火し消えることがないというのが謳い文句のライターだ。
使ったことのない人はたった一度でいい、こいつを墓参りで使ってみてほしい。即座にポケットの100円ガスライターを、地平線のかなたかあるいは本堂の屋根までぶん投げたくなるはずだ。
戦場で胸ポケットに入れておいたジッポーが弾丸を受け止めてくれたおかげで命拾いしたという伝説があったり、果ては、スコップとしても使えた! などという話もどっかから聞こえてきたりして、それはもう座敷わらしとか錬金術とかと同じレベルで信奉されているツールなのである。
そしてさらに、それがベトナム戦争にゆかりあるモノだときたらこれはもう――僕と同世代の男ならば特に――、こみ上げるナニモノかがあって、どうしようもなくなってしまうのである。
なぜかっつーと――、
【ベトナムジッポー 2】につづく。
(注1……2002年頃の事情である。現在国営デパートは閉店、ドンコイ通りの怪しい土産物店も姿を消した。ハノイの事情はよく知らない)
スカイスキャナー

文/写真 太田耕輔(ライター・文筆家)
パラオの某ダイブショップにマネージャーとして勤務していたが6年目にして発作的に退職、日本に帰らずそのままインドシナ半島放浪の旅へ。フラフラになったところをベトナムにとどめをさされ帰国。戦場で胸ポケットに入れておいたジッポーが弾丸を受け止めてくれたおかげで命拾いしたという伝説があったり、果ては、スコップとしても使えた! などという話もどっかから聞こえてきたりして、それはもう座敷わらしとか錬金術とかと同じレベルで信奉されているツールなのである。
そしてさらに、それがベトナム戦争にゆかりあるモノだときたらこれはもう――僕と同世代の男ならば特に――、こみ上げるナニモノかがあって、どうしようもなくなってしまうのである。
なぜかっつーと――、
【ベトナムジッポー 2】につづく。
(注1……2002年頃の事情である。現在国営デパートは閉店、ドンコイ通りの怪しい土産物店も姿を消した。ハノイの事情はよく知らない)
スカイスキャナー

文/写真 太田耕輔(ライター・文筆家)
1年半引きこもってパラオでの体験を書き、半年かけて出版社に売り込んで回ったら本当に出してもらえるという奇跡が起きた。それがダイバーはパラオの海をめざす
以降ライター・文筆家として活動。エッセイ、取材記事、ガイドブックやパンフレット、マニュアル、宣伝用の文章からメルマガまで文章ならなんでも書く。
接触を試みたい方はこちら⇒daijooob@gmail.com
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